ナポリを見たら死ぬ

南イタリア、ナポリ東洋大学の留学記。なお実際にはナポリを見ても死ぬことはありません。

イタリア古典文学の教授に懇願する

年内最終授業日の今日、ぼくは、イタリア古典文学の教授に泣きつくことを決意した。

 

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 先日、ぼくは件の授業の筆記試験を受けてきたのだが、これはあくまで中間試験であって、最終試験ではない、ということになっている。

だが、どうやら外国人学生は懇願すれば最終試験を免除してもらえるらしい。なんでも、去年同じ授業を受けた留学生らは、「口頭試験は無理すぎる」というようなことを訴えた結果、筆記試験の成績で単位が認められたのだそう。マーベラス

今期、ぼくは古典文学のほかに、イタリア地理、ギリシャ文学の授業を受講しており、イタリア地理は400ページに及ぶ課題図書が一行目から理解できないという苦難に直面している上、ギリシャ文学については最低10ページの小論文を書かねばならない。そしてそれぞれ最終試験が口頭試問で行われる。重すぎる。こんなことなら大学になんてこないでユーチューバーにでもなればよかったと思うくらいに重すぎる。ここに古典文学の最終試験が舞い込んできたら間違いなく死亡するので、年が明けたら即座に教授に泣きつく。必要とあれば土下座も厭わない。もちろん筆記試験の結果次第ではあるが、『神曲』について語るために毎日震えるほど勉強したし、そんなに悪い結果ではないだろう。悪くないと思いたい。

ホームステイ先のニートの長男がカレー好きだった話

いま、ぼくはナポリで大学に通いつつ一人暮らしをしているわけだが、かつて、ローマに留学したことがある。

ローマではイタリア人家族の家にホームステイをしていた。ぼくにとってはとても良い家族で、今でもときどき連絡をとっている。ただ、ぼくの滞在中にマンマが浮気未遂(完遂説もある)をやらかし、夫との間に亀裂が入るなど、必ずしも家庭円満とは行っていない面もあった。おまけに長男君はニートだった。

長男のマリオ(仮名)は高校卒業後、仕事をするわけでもなく学校に通うわけでもなく、ただただ家に引きこもって怠惰な生活を送っていた。当時、すでにニート歴5年ほどで、24歳かそこらだったと思う。ただ、マリオは決して悪いニートではなかった。とても優しく、思いやりもあるし、気配りもできる。いわゆる好青年である。引きこもりのニートというと、家庭内暴力をしてみたり、性格の荒んだ存在であるかのような悪いイメージがあるかもしれないが、マリオは絶対にそんなことはなかった。親も親でニートのマリオに絶大な愛情を注いでおり、「マリオは英語もできるし、そのうちなんか仕事も見つかるでしょ。好きなようにやればいいのよ」とマンマはよく言っていた。その甘やかしが良くないような気がするのだが、ともかく、マリオと家族、ぼくとの関係は良好だった。

マリオは部屋に引きこもりがちだったのでその生態はいまもって謎だが、夜中にネットゲームをやっていたことだけは判明している。そのため昼間は寝るという昼夜逆転生活を送っており、食事は時間も合わないので部屋の前にマンマが配膳するというシステムが取られていた。そして誰も知らないうちに部屋で食べ、空っぽになった食器だけがまた部屋の前に置かれるというシステムである。引きこもりの自虐ネタか何かで似たような話を読んだことがあり、やり方が万国共通なので感心したことを覚えている。

ところがそんなマリオには、ただひとつだけ悪い癖があった。夜中に食い散らかすのである。

ぼくはときどきカレーを作るのが好きだった。といっても、街中のアジアンマーケットで日本のカレールウを買ってきて、適当に材料と混ぜ合わせるだけなのでたいした話ではない。ともかく、普段は家族皆と同じ食事をしていたのだが、ときどきカレーが食べたくなると勝手に調理して食べていた。もちろん、家族から要求されれば振る舞ったし、おおむね好評でもあった。

だが、問題はマリオである。市販のカレールウを一箱使って、パッケージによれば8食分のカレーを作り、夕飯にせいぜい2食分くらいを僕や家族が食べ、次の日にも十分食べられるくらい残して床に就くわけだが、朝起きるとすべて無くなっているのだ。一晩寝かせたカレーのほうがおいしいのに、一晩経つとカレーがない。夜中に起きているのはマリオしかいないので、犯人はマリオ以外にあり得ない。そして運良くマリオと遭遇した折にカレーについて聞いてみると、「おいしかったからまた作ってくれ」などと言うのである。いや、いいけど。いいけど全部食べないでくれ。

そんなわけで、ぼくがカレーを作るたびにこの悲劇は繰り返された。カレーを一晩寝かせようとすると消滅している。あるとき、「一晩寝かせた方がおいしいので明日まで残すこと。ラザニアと同じ」とメモ書きを残して食い散らかしを阻止しようとしたことがある(余談だがラザニアも一晩寝かせたほうがうまい)。次の朝、緊張して鍋のフタを開けると、こぶし大ほどのカレールウが残されていた。結局9割食ってやがる。でも憎めない。マリオは憎めない。笑顔でおいしかったとか言うから。マリオ、元気にしてるかな。相変わらずニートやってるんだよね。

古典ギリシャ文学の教室がわからない

このあと、古典ギリシャ文学の授業なのだが教室が決まっていない。

本来この授業は14時半からなのだが、前回の授業中、「定年退職する同僚のお別れパーティにどうしても出席したい、だから授業時間を変更させてくれ」と教授が深い人間味を見せたため、いつもより2時間早めに授業が行われることになったのだ。

ところが授業時間を変更するとなると、当然教室の確保が問題となる。普段使用している教室は別の授業が行われているため利用できない。なので「教室については事務局と調整して追ってメールで連絡する」と教授は言っていたのだが、授業まで30分の時点で連絡がない。しびれを切らした学生が教授に直接確認したところ、「システム上は教室はすべて埋まっているが、たいてい一つは空いているので、とりあえず時間になったら講義棟の中庭に集合してみんなで探そう」と言われたそうだ。せめてそれだけでもメール連絡しないの?というか本当に空き教室あるの?

イタリア古典文学の筆記試験

今日、ぼくはイタリア古典文学の筆記試験を受けてきた。

試験といっても最終的に成績の決まる試験ではない。正式な試験は年が明けてから、口頭試問で行われる。イタリアの試験は基本的に口頭試問である。が、一度にすべてを決めるのも良くないし、また学生にとっても途中で確認試験があったほうがいいだろうという教授のはからいで、学期の途中ながら筆記試験が行われたのだ。

ところが学期途中と言っても、ぼくにとってはイタリア古典文学の授業はすでに終了している。ぼくはイタリア古典文学の授業で6単位を取らなければいけないのだが、6単位を履修する学生は11月末までで授業が終わるのだ。一方で8単位を取る学生は年明けまで授業に通う。なかなか不思議なシステムだが、そういうものなのだ。

そんなわけで、ぼくにとっては名目上は中間試験ではあるが、授業はすでに完了しているし、それゆえ実質的には最終試験で問われるものと内容が変わらないわけだから、確認の意味も込めて受験してきたわけだ。しかし試験はあくまで任意で、最終試験に影響するかしないかは学生が選ぶことができる。何を言っているのかよくわからないだろう。

つまり、筆記試験は任意。中間試験ではあるが、6単位を履修する生徒には内容的には中間ではなく全範囲の試験である。かつ、もしも筆記試験がいい成績であれば、年明けに行われる口頭試問による最終試験一発で成績を決めることなく、筆記試験の結果を評定の一部として利用できる。筆記試験を受験しなかったり、成績が悪かったら、口頭試問の一発勝負で成績を100%決めることになる。なんだかやけに複雑だが、要するに筆記試験はやってもやらなくてもいいけど、もしもいい点数だったら成績配分に組み込んで最終評定で有利になることもできるよ、ということである。

つまりあくまでも中間試験なので、結局年明けには最終試験を受けなければいけないらしいのだが、筆記試験を受ければ最終試験を免除されるという説も出回っており誰にもなにもわからない。そもそも教授があいまいな言い方をするので混乱が生じるのだ、「確認試験は任意ですが、いい成績を取ったら、口頭試験はまあ、私と気軽に話にきてください」などと言うのである。「気軽に話す」とはなんだ?お茶でも飲むのか?そもそも6単位しか必要ない学生からしたら筆記試験も口頭試験も書くか話すかの違いしかないわけで、わざわざ2回やる必要があるのかという問題もあり、結局我々は最終試験を受けなければいけないのか否か不明である。頼むからはっきりしてくれ。

ともかくぼくは筆記試験を受けてきた。

試験自体は主にダンテの『神曲』について、あるいはそこから影響を受けたFederico FrezziやらPaolo Regioといった詩人についての質問が12個あり、そのうちいくつかを選んで自由回答するというものだった。8単位を取る学生は最低でも8個、6単位の学生は6個、外国人生徒は4〜5個回答せよ、という指示だった。偉大な配慮である。そんなわけでぼくは5個だけ回答したのだが、それでも時間ギリギリいっぱいだった。いくらネイティブといえども、あの時間では8個回答できるとは思えない。8単位の学生にとっては少し厳しかったのではないか。

設問は「ダンテは人文主義者か?」「『神曲』から一曲を選んでその内容・構成を説明するとともに言語的な特徴を指摘せよ」「『神曲』天国編における光・調和・幸福について書け」などといったもので、本当に頭がおかしくなるかと思った。もちろんちゃんと勉強をして備えてはいたのだが、日本ではあまりない形式の試験だし、そもそもそんなことをイタリア語で大真面目に書くのは大変つらい。いくら確認試験とはいえ重すぎるよ。

ところで最終試験ではないとはいえ、やはり成績に関係する試験ではあるのだから厳正に行われるのかと思われたが、そんなことは全くなかった。学生同士が普通に話し合って助け合っているのである。いやもちろん大声で騒いでいるわけではないのだが、「これわかる?」「それはね〜」などと説明する声が聞こえてくる。そもそも任意だし、自由回答式という慣れないものだし、平気でカンニングまがいの行為をしているし、試験というものを考えさせられる経験であった。

大学から詐欺メールが届きまくっている

たいていどこの大学にもあると思うが、ナポリ東洋大学にはCLAORと呼ばれる語学学習センターがある。留学生向けのイタリア語のコースを開講してくれたり、英語その他の言語を自主学習するための教材を提供してくれたりする大学内部の組織だ。

そのCLAORの名前を騙った詐欺メールが届きまくっている。CLAORというかなりピンポイントな名前を騙っているところや、実際にぼくがCLAORに登録されていることを考慮すると、CLAORからぼくのメールアドレスが流出したとしか思えない。

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今日の昼前頃から突然メールが届き始め、「今月の給料」云々怪しい内容が書かれている上に不審なURLが記載されている。詐欺メール以外の何物でもない。おまけに恐ろしいことに、なんとメールの文面にぼくの名前がしっかりと書かれているのである。「拝啓Romolo様」って、メールアドレスと名前が丁寧に紐付いて流出している。CLAOR、お前は一体なんてことをしてくれたんだ。酷すぎる。