ナポリを見たら死ぬ

南イタリア、ナポリ東洋大学の留学記。なお実際にはナポリを見ても死ぬことはありません。

日本の大学職員は決して無能でもなければクソでもない

ナポリ東洋大学に入学してまる三ヶ月になろうかという今ごろになって、ぼくはようやく学生証とメールアドレスを入手した。

もともと、学生証もアドレスも年明けに発行される予定だった。なぜそんなに時間がかかるのかこの時点でだいぶ意味がわからないのだが、ともかく、1月になって発行準備が完了次第、学生にはメールで連絡が入るということになっていた。ところが、先日になって学生証がすでに配布され始めていることが判明した。え?メールで連絡されるんじゃなかったの?ますます意味がわからない。

なんでも、ぼくのクラスメイトが別の用事で学生課に行った折に、学生証の発行について「年明けのいつ頃になりますか」と聞いたら、なんとその場ですぐに発行してもらったというのである。クラスメイトが驚いて「メールで連絡されるのかと思ってました」と言うと、「メールでの連絡なんてしないし、もう発行できるから受け取りたければ来ればいい」などとぶっきらぼうに言われたという。一体どうなっているんだ。ぼくが自分自身で学生課へ行って聞いたときにも、たしかに年明けにメールで連絡すると言われたのに。何もかも矛盾している。せめて学生に向けてたった一本メールを入れるだけのこともできないのだろうか?

ともかく、学生証がもらえるという情報を得たぼくは、クリスマス休暇に突入する前にあわてて学生課へ行ってきたわけである。年末年始に旅行するにあたって、色々なところで学生割引の恩恵に与るために、学生証が必要なのだ。そして、受付で「学生証がほしい」と伝えると、あっさりと発行された。ついでに、「もしかして大学のメールアドレスももう発行してもらえたりしますか」と聞いてみると、これもあっさりと発行された。おお、もう・・・。手に入れたメールアカウントにアクセスしてみると、受信箱には大学からの連絡がすでにいくつか届いていた。どれもたいした連絡ではないからいいのだが、もしも重要な連絡だったらどうなっていたのだろう。

大学のメールアドレスはOffice 365を使うために必要だった。大学のアドレスがあると、WordやExcelが無料で使えるのだ。さっそく、手に入れたアドレスでOffice 365のサイトから学生向けのサブスクリプションに登録しようとすると、メールアドレスに確認コードを送信したからそれを見ろ、というような案内が表示される。もちろん確認コードは届いていない。何度か登録をやり直してみたり、時間をおいてみたり、確認コードを再送信してもらったりしてみたものの、やはり届かない。たぶんスパム扱いか何かで大学側で弾いているんだろう。残念ながらOffice 365は使えない。本当にひどい

日本の大学生は「学生課はクソ、無能」などと言う。ぼくの通っていた某大学でもそう言われていたし、ぼく自身も少なからずそう思っていた節がある。今になって反省している。日本の大学職員は決して無能でもなければクソでもない。なぜなら、思えば学生証は入学と同時に配布されたし、メールアドレスもすぐに使えたし、Office 365の確認コードもしっかり届いたから。彼らはナポリ東洋大学の職員に比べたらすでに神の域に達している。無能だクソだなんだと罵ってはいけない。日本の大学生よ、謙虚であれ。

ホームステイ先のマンマが浮気して夫婦仲が崩壊したけどニートの長男が繋ぎ止めている話

 

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 かつてぼくがローマにホームステイしていたとき、ステイ先の家族は長男はニートであったが、それでも当初は幸せな家庭だった。

夫ファビオ、妻エレナはともに60歳手前、すでに長く連れ添っていながらも夫婦仲は愛に溢れていた。ファビオは仕事柄、月の半分ほど出張で留守になるのだが、出発の際には「愛してるよ」などと言い別れのキスをして仕事に向かうのだった。もうすぐ還暦を迎えようかという夫婦が行ってらっしゃいのキスなんてしないでしょ。ローマに着いて間もないぼくは、イタリア人夫婦の愛の絆に心打たれたものである。

ところがあるときから様子がおかしくなり始める。エレナが一言でも声を発すると、即座にファビオが「うるせえ!」「静かにしろ!」などと声を荒げるようになったのである。行ってらっしゃいのキスはなくなり、ただのDVが行われるようになった。さすがに身体的な暴力が振るわれることはなかったが、言葉の暴力でもDVはDVだ。

たしかにエレナにしても、しょっちゅうローマ弁でブツブツと独り言を呟いており、うるさいかうるさくないかで言えばたしかにうるさかった。ほんのちょっとでも小雨が降れば「ま〜た大洪水ね、もううんざり」などと嘆き始めたりするなど、いちいち大げさなところもあった。とはいえそれはそれで面白いものだっただけに、ある頃から「黙れ!!」「おれは静かに死にたいんだ・・・」などとファビオがキレたり嘆いたりするようになったのは全くもって謎であった。おまけに、エレナが外出先からファビオに電話すると、「電話かけてくんな!!」などと言ってすぐに切ってしまうのである。大事な用だったらどうするんだろう。ひどすぎる。まあ、エレナはとりあえず声を聞くためだけに電話するみたいなところもあったけど。ともかく、話題が話題だけに、ぼくも割り込んで余計な面倒を起こせない。

しかし、しばらくそのような状態が続いたあとで突然その真相が明かされる。あるとき、ぼくはファビオとともに海へ行ったのである。その帰り道、ファビオが運転する車で彼は友人と電話し始めた。細かいことだけど運転中に携帯で話すのはだめだからね?ともかく、その電話中にエレナのことが話題に上がる。「あいつ、フェイスブックの猫の飼い主グループで知り合った男のところに行きやがったんだ」。え?もしかして浮気?「それで、そんな気はなかったって言ってたけど、その男とキスしたらしい」。エレナの浮気かよ。何やってんだ。妻の浮気でファビオは深く傷ついてしまったんだろう、夫婦仲は崩壊してしまった。でも暴言はだめ。

それでも二人は深いところでは繋がっていると見受けられることがあった。それはニートの長男の話をするときである。エレナは長男の行く末にはかなり楽観的で、「あの子は英語もできるし、やろうと思えばすぐに仕事も見つかるでしょ」というスタンスなのだが、ファビオは「あいつは大学にも行ってない、もう五年も何もしてない。どうするんだ」などとそこそこ心配しており、ときどきその不安を口にするのである。そのときだけは夫婦間にまともな会話が持たれる。ニートの長男が彼らを繋ぎ止める絆なのである。逆に言えば、彼が自立したら二人の間はもう持たないかも知れない。長男よ、このままニートを続けてくれ。

イタリア古典文学の教授に懇願する

年内最終授業日の今日、ぼくは、イタリア古典文学の教授に泣きつくことを決意した。

 

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 先日、ぼくは件の授業の筆記試験を受けてきたのだが、これはあくまで中間試験であって、最終試験ではない、ということになっている。

だが、どうやら外国人学生は懇願すれば最終試験を免除してもらえるらしい。なんでも、去年同じ授業を受けた留学生らは、「口頭試験は無理すぎる」というようなことを訴えた結果、筆記試験の成績で単位が認められたのだそう。マーベラス

今期、ぼくは古典文学のほかに、イタリア地理、ギリシャ文学の授業を受講しており、イタリア地理は400ページに及ぶ課題図書が一行目から理解できないという苦難に直面している上、ギリシャ文学については最低10ページの小論文を書かねばならない。そしてそれぞれ最終試験が口頭試問で行われる。重すぎる。こんなことなら大学になんてこないでユーチューバーにでもなればよかったと思うくらいに重すぎる。ここに古典文学の最終試験が舞い込んできたら間違いなく死亡するので、年が明けたら即座に教授に泣きつく。必要とあれば土下座も厭わない。もちろん筆記試験の結果次第ではあるが、『神曲』について語るために毎日震えるほど勉強したし、そんなに悪い結果ではないだろう。悪くないと思いたい。

ホームステイ先のニートの長男がカレー好きだった話

いま、ぼくはナポリで大学に通いつつ一人暮らしをしているわけだが、かつて、ローマに留学したことがある。

ローマではイタリア人家族の家にホームステイをしていた。ぼくにとってはとても良い家族で、今でもときどき連絡をとっている。ただ、ぼくの滞在中にマンマが浮気未遂(完遂説もある)をやらかし、夫との間に亀裂が入るなど、必ずしも家庭円満とは行っていない面もあった。おまけに長男君はニートだった。

長男のマリオ(仮名)は高校卒業後、仕事をするわけでもなく学校に通うわけでもなく、ただただ家に引きこもって怠惰な生活を送っていた。当時、すでにニート歴5年ほどで、24歳かそこらだったと思う。ただ、マリオは決して悪いニートではなかった。とても優しく、思いやりもあるし、気配りもできる。いわゆる好青年である。引きこもりのニートというと、家庭内暴力をしてみたり、性格の荒んだ存在であるかのような悪いイメージがあるかもしれないが、マリオは絶対にそんなことはなかった。親も親でニートのマリオに絶大な愛情を注いでおり、「マリオは英語もできるし、そのうちなんか仕事も見つかるでしょ。好きなようにやればいいのよ」とマンマはよく言っていた。その甘やかしが良くないような気がするのだが、ともかく、マリオと家族、ぼくとの関係は良好だった。

マリオは部屋に引きこもりがちだったのでその生態はいまもって謎だが、夜中にネットゲームをやっていたことだけは判明している。そのため昼間は寝るという昼夜逆転生活を送っており、食事は時間も合わないので部屋の前にマンマが配膳するというシステムが取られていた。そして誰も知らないうちに部屋で食べ、空っぽになった食器だけがまた部屋の前に置かれるというシステムである。引きこもりの自虐ネタか何かで似たような話を読んだことがあり、やり方が万国共通なので感心したことを覚えている。

ところがそんなマリオには、ただひとつだけ悪い癖があった。夜中に食い散らかすのである。

ぼくはときどきカレーを作るのが好きだった。といっても、街中のアジアンマーケットで日本のカレールウを買ってきて、適当に材料と混ぜ合わせるだけなのでたいした話ではない。ともかく、普段は家族皆と同じ食事をしていたのだが、ときどきカレーが食べたくなると勝手に調理して食べていた。もちろん、家族から要求されれば振る舞ったし、おおむね好評でもあった。

だが、問題はマリオである。市販のカレールウを一箱使って、パッケージによれば8食分のカレーを作り、夕飯にせいぜい2食分くらいを僕や家族が食べ、次の日にも十分食べられるくらい残して床に就くわけだが、朝起きるとすべて無くなっているのだ。一晩寝かせたカレーのほうがおいしいのに、一晩経つとカレーがない。夜中に起きているのはマリオしかいないので、犯人はマリオ以外にあり得ない。そして運良くマリオと遭遇した折にカレーについて聞いてみると、「おいしかったからまた作ってくれ」などと言うのである。いや、いいけど。いいけど全部食べないでくれ。

そんなわけで、ぼくがカレーを作るたびにこの悲劇は繰り返された。カレーを一晩寝かせようとすると消滅している。あるとき、「一晩寝かせた方がおいしいので明日まで残すこと。ラザニアと同じ」とメモ書きを残して食い散らかしを阻止しようとしたことがある(余談だがラザニアも一晩寝かせたほうがうまい)。次の朝、緊張して鍋のフタを開けると、こぶし大ほどのカレールウが残されていた。結局9割食ってやがる。でも憎めない。マリオは憎めない。笑顔でおいしかったとか言うから。マリオ、元気にしてるかな。相変わらずニートやってるんだよね。

古典ギリシャ文学の教室がわからない

このあと、古典ギリシャ文学の授業なのだが教室が決まっていない。

本来この授業は14時半からなのだが、前回の授業中、「定年退職する同僚のお別れパーティにどうしても出席したい、だから授業時間を変更させてくれ」と教授が深い人間味を見せたため、いつもより2時間早めに授業が行われることになったのだ。

ところが授業時間を変更するとなると、当然教室の確保が問題となる。普段使用している教室は別の授業が行われているため利用できない。なので「教室については事務局と調整して追ってメールで連絡する」と教授は言っていたのだが、授業まで30分の時点で連絡がない。しびれを切らした学生が教授に直接確認したところ、「システム上は教室はすべて埋まっているが、たいてい一つは空いているので、とりあえず時間になったら講義棟の中庭に集合してみんなで探そう」と言われたそうだ。せめてそれだけでもメール連絡しないの?というか本当に空き教室あるの?