ナポリを見たら死ぬ

南イタリア、ナポリ東洋大学の留学記。なお実際にはナポリを見ても死ぬことはありません。

イタリア封鎖生活三十数日目の部屋

今週のお題「わたしの部屋」

 

昨年、仕事を辞めてまでわざわざイタリアの大学院に入学したというのに、半年足らずで新型コロナウイルスの影響で何もかもが閉鎖され、どこへ行くこともできず、大学は通信授業となり、電車で半時間ほどのところに住んでいる恋人と遠距離恋愛をしているのは、全くもって理不尽と言わざるを得ない。意味がわからない。こうなると収入の減少だとかではなくて何でもいいから誰か見舞金として30万円支給してくれという気持ちである。

ともかくロックダウンが発動されて以来、三日に一度ほどスーパーへ買い出しへ行くほかはどこへ行くこともできないので、必然的に家にいる時間が格段に増えた。ぼくの住む部屋は、ナポリの歴史地区のパラッツォの一階にある。まあ、イタリアによくありがちな中庭のあるマンションだ。パラッツォの入り口の扉をくぐり、車が5台ほど停められるくらいの大きさの中庭の通った先の隅に、僕の部屋がある。詳しいことはわからないが、もともとは倉庫か何かだったのではないかと思う。そもそも、一階にあると言っても、まず玄関が二段くらい低い、奥まったところにあるし、何よりまともな窓がないので人が住むことが当初から想定されていたとは到底思えない。一応、玄関の扉に申し訳程度の窓がはめ込まれているのだが、奥まった場所にあるので外からの光はろくに届かない。

封鎖生活でまともな窓がないのはじつにつらい。封鎖生活という状態それだけでも息が詰まるのに、部屋の換気すらまともにできない。一応、部屋には換気扇がついているのだが、うるさいだけで効果がない。玄関の扉にはめ込まれている窓は開けられるものの、小さいのであまり効果がない。そんなわけで、ぼくは換気のためにしばしば玄関を開け放つことになる。すると外の新鮮な空気とともにハエまで入り込んでくる。網戸が欲しい人生だった。

さてぼくの部屋は窓がないにしても、中は広々としていて悪くない。全部で50平米くらいの大きさだ。Googleによると50平米は27畳ほどであるらしい。とはいえ、27畳の大部屋があるわけではなく、ロフトのある二階建て構造になっている。

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しかしロフトといってもほとんど独立した二階のようなものだし、上部も広々としているので、日本のアパートでイメージするようなロフトほど狭くはない。ロフト部分が寝室とバスルームで、一階部分がキッチン兼リビングと言ったところか。

そしてぼくの部屋の最大の魅力はスーパーマンがいることである。

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入居当初からスーパーマンはここにいた。顔をはめて遊ぶことができるお楽しみ仕様だ。使ったことはないし、なぜここにあるのかもわからない。ちなみにこのスーパーマンの裏側にはもう一枚ベニヤ板があり、そちらにはスーパーウーマンが描かれている。同じく顔をはめて楽しめる仕様だが、使ったことはない。誰か引き取りに来てくれ。

ナポリでは卒業パーティーを開くと火炎放射器を持ったカラビニエリを送り込まれる

video.corriere.it

ナポリを含むカンパニア州でもCOVID-19の感染者はジワジワと増えている。3月28日頃に1,500人、4月初頭には3,000人の感染者を数えることになる、という予測も出ている。

そのためカンパニア州知事のデ・ルーカ氏は抑え込みに必死だ。もともと、散歩の禁止出前サービスの中止など、国レベルでの規制よりさらに一歩踏み込んだ州知事令を出して対応にあたってきたデ・ルーカ氏だが、ついにキレた。そもそも、イタリア北部が封鎖されるという話が出たとき、少なからぬ人々が南に脱出したことや、さらには、感染防止のための責任ある行動が叫ばれ始めていたのに、飲み会に興じる若者がいたことを無責任な行動として非難し、そうした無責任な行動が感染を拡大させているのだ、と知事は言う。まあ、たしかに、イタリアでいまいち感染拡大に歯止めがかかっていない感じがするのは、未だに好き勝手に行動している人々がいるからなのだろうな、という気はする。

しかしすごいのはデ・ルーカ知事の毅然とした態度である。それは知事がFacebookで発信したライブ配信でのメッセージであった。曰く、ちょうど今は大学の卒業シーズンなので、知事の耳にも「若者が卒業パーティーをやりたがっている」などという知らせが届くそうだ。「カラビニエリ(軍警察)を送り込むぞ」、と知事は言う。そしてさらに、火炎放射器を持たせて送り込む」と言い切るのである。「卒業パーティー2ヶ月、3ヶ月、4ヶ月後にでもやればいい。ありえない」。知事の本気度が伺える。でもここまで言わなきゃいけないってどうなんだ。

ナポリ、完全におしまい

 

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ちなみに、レストランやバーの営業時間は6〜18時までに制限されているのだが、宅配は18時以降も可能である。つまり18時以降もピッツァのオーダーができる。希望もあるということ。

前回の記事でぼくはこう書いた。レストランの営業時間は制限されているが、日中は開いている。さらに、制限時間外であってもピッツァのオーダーができる、と。

3月12日、イタリア全土でレストランやバーなどが完全に休業することになった。首相令によるもので、スーパーマーケットや薬局など生活必需品に関わる商店の営業を除いて、商店の営業が禁じられたためだ。しかし、首相令では宅配は禁じられていない。つまり、UberEatsなどでピッツァの宅配を頼むことは可能だ、ということ。

ところが、ナポリのあるカンパニア州はさらに一歩踏み込んだ。カンパニア州知事は馬鹿なのだろう。首相令のあと、州知事令で宅配をも禁じたのである。曰く、梱包された商品の配送は認めるが、その他は認めないということである。おわかりいただけるだろうか?そもそもピッツェリアは営業できない。それゆえ店に赴いてピッツァを食べることはできない。ほかの州であればしかし、それでも宅配ピッツァを頼むことができる。ところがナポリでは、宅配ピッツァすら頼めないのである。ゆえにナポリピッツァを食べることはできないのである。

 

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せめて最後の最後までナポリのピッツェリアが封鎖されないことを祈っていたが、もうすでに営業時間が制限されているし、ピッツァが食べられなくなったらいよいよおしまい。ピッツァが食べられなくなったときナポリは終わる。そのときが本当におしまい。

数日前、ぼくはこう書いた。見事に伏線が回収された。おわりだ。本当におわりだ。ナポリは文字通りもうおしまいだ。本当にありがとうございました。

イタリア、ぶっ壊れる

そもそもほとんど何もかも閉鎖されているので行くあてもないのだが、新型コロナウイルスのせいで極力外出を控え、家に居なければいけないので、情報収集と暇つぶしにニュースで状況を追っているのだが、日々状況が悪くなっていく。

たとえば、昨日スーパーに行ってきたのだが、人が殺到しているうえに、各人が1メートル以上のスペースを確保できるように入店人数が制限されているから、スーパーまで100メートル以上も行列ができていた。

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行列

おまけに、店内ではパスタがほとんど売り切れていた。よくわからないメーカーのあまり使わない種類ばかりが残っていて、BarillaやDe Ceccoなどの有名どころのパスタは完全に消滅していた。ちなみに、写真は撮らなかったのだがトイレットペーパーもほとんど残っていなかった。トイレットペーパーを買い占めるのは日本人だけではないみたいですよ。

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パスタ売り切れ

もともと、ロンバルディア州ほか北部14県に適用されていた首相令の範囲が拡大されて、イタリア全土で移動が制限されるようになったとはいえ、ナポリはまだ感染が爆発しているわけではない。それでこの有様なのだから、"震源地"とも言えるロンバルディアはとんでもないことになっているのではないかと思う。

実際、ロンバルディアではスーパーや薬局以外を除いてすべてを閉鎖することが検討されている。

milano.repubblica.it

現時点では検討段階なので、実際に適用されるかはわからないが、本当に必要最低限な食品店や薬局だけを営業させるという案だ。こんな話が出るくらいにイタリア北部は追い込まれている。おまけに、上記記事では重症患者向けのベッドを2015年ミラノ万博の跡地に設ける方向で動き始めているということまで書かれている。他の記事を読むと、どうやらロンバルディアではすでに医療機関がパンクしているようである。

www.repubblica.it

ベルガモ市長曰く、

Sembra che la crescita stia solo rallentando e invece è solo perché non ci sono più posti (se ne aggiungono pochi con grande fatica). I pazienti che non possono essere trattati vengono lasciati morire

(訳注:集中治療を施される重症患者数の)増加ペースが落ちているように見えるが、実際にはベッドがもうないだけなのです(大変な労力をかけてもほんのわずかしか増やせない)。処置が施せない患者は死ぬがままにされています。

市長がそんなに不安を煽るような発言をしていのか疑問だが、実際に年齢やほかの疾患の有病状況を踏まえて患者の選別をしている(Coronavirus, il medico di Bergamo: "Costretti a decidere chi salvare. Come in guerra" | L'HuffPost) という記事もあるし、イタリア北部はもうおしまい。これが南部にまで広まったら本当におしまい。

ちなみに、レストランやバーの営業時間は6〜18時までに制限されているのだが、宅配は18時以降も可能である。つまり18時以降もピッツァのオーダーができる。希望もあるということ。

ナポリの終わりは近い(か?)

www.repubblica.it

3月8日、新型コロナウイルスことCovid-19の感染拡大にともない、ロンバルディア州ほか北部14県が封鎖され、様々な規制が施されたと思ったら、翌9日には封鎖措置が全土に拡大された。どこもかしこも4月3日まで閉鎖だ。大学、ジム、博物館、美術館、ディスコ、スキー場等々。さらに、レストランやバールなどの飲食店の営業は6時〜18時に制限されるし、スーパーなどは営業可能だが各人が1m以上ほかの人びとから離れられるだけのスペースを確保しなければならない。加えて、不要不急な移動が制限される。鉄道や高速道路に検問が設けられ、移動に際してはその理由を自己申告する必要がある。そのための書式も配布されている。

もうわけがわからない。スーパーに人が殺到しているとの新聞記事になっていたが、実際にぼくも近所のスーパーへ行ったら店の外まで100メートル以上の行列ができていたので諦めて帰ってきた。封鎖令が拡大するという話が出る前に、「4月までの食料を買い溜めた」と言っていた同窓の中国人女子留学生が結果的に大正解だったようだ。ちなみに、彼女の話によれば、多くの中国人留学生は自国のほうが安全だというので、イタリアから脱出しているらしい。ウイルス発生当初と完全に立場が逆転した。

ところで、イタリアの感染状況は、下のマップで確認できる。市民保護局というイタリア政府の機関が公開している正式なものである。

opendatadpc.maps.arcgis.com

見れば、感染は北部に集中しているが、ナポリのあるカンパニア州も9日17時現在で累計120件の陽性者が出ている。しかし、ロンバルディアでの感染のピークが4月半ば、その後ほかの地域にも波及していくという観測(Coronavirus, il contenimento sarà prolungato - Biotech - ANSA.it)もあるし、もうおしまい。せめて最後の最後までナポリのピッツェリアが封鎖されないことを祈っていたが、もうすでに営業時間が制限されているし、ピッツァが食べられなくなったらいよいよおしまい。ピッツァが食べられなくなったときナポリは終わる。そのときが本当におしまい。