イタリアの就学ビザ申請にあたってはいくつか申請書類を準備する必要があるのだが、そのひとつに住居に関する書類というものがある。
賃貸契約書、寮などへの入居証明書、ホームステイ先からの受け入れ承諾書など、要するに渡航後に住む場所があります、ということを証明する書類が必要なのだ。
とはいえ実際問題として、日本にいながらイタリアの住居を確保するのは針の穴を通すよりも難しい。日本人は観光ビザは免除なので、一時渡航して家を確保してから帰ってきて就学ビザを申請することはできる。でもそのためだけにイタリアまで行くなんて、現実的ではない。お金もかかるし。
学部の交換留学生などは、代々先輩から受け継がれてきたアパートやステイ先があったりするので、そんなに困らない。
でも僕は(いちおう)社会人だし、先輩とのコネもない。これは大変困った。
家を見つけるためにやったこと
Facebookの貸し借りグループで探してみた
Facebookには「アパート/部屋貸します・借ります」というグループが、たいていイタリアの街ごとにあって、いろんなひとが「ウンベルト通りのアパート貸します。光熱費込300ユーロ。家具付き。女性のみ」とか、「学生。大学付近のシェアアパート希望。〜200ユーロ」などと投稿している。現地学生はこうやって家探しするのが主流みたい。安いし。そりゃこうやって貸せば仲介業者も納税も不要だから安いよね。脱税だけど気にしてはいけない。
ともかく僕も投稿してみた。
「一人暮らし用アパート借ります。家具付き、大学付近のエリア希望」
2分もしないうちにダイレクトメッセージが届く。
「チャオ!キアイアーノだけどどう?」
キアイアーノというのはナポリの区画のひとつ。僕の希望しているエリアからはそこそこ遠い。新宿のアパートを希望したら品川のアパートで打診された、くらいの感じ?それちょっと厳しくない?丁重にお断りする。
結局、この一人だけで他にはメッセージが来なかったので、「貸します」の投稿に対していくつかメッセージを送ったけど返信はなかった。というわけでFacebook家探しは諦める。
友だちに協力してもらった
たまたま連絡を取っていたイタリアの友人に「家が見つからない」とボヤいてみたら、彼女が助けてくれた。でも彼女はトリノ在住。「お母さんの友だちがナポリに住んでるから聞いてみるわ!」って、すごくない?友だちのお母さんの友だちに協力してもらうことってある?しかも助けてくれってお願いしたわけじゃないのに。誰かが困ってるときのイタリア人は強い。本当に強い。
そんなわけで、友だちのお母さんの友だちであるアントネッラおばさんに手伝ってもらって、不動産屋を紹介してもらった。でも、「本人に来てもらわないと契約はできないし、どんな書類も書けない」と言われて断られてしまった。う〜〜〜ん、まあしょうがないのかな・・・。
困った。これはどうにもならないぞ。とりあえず助けてくれた友人に連絡を取ってみる。
「ねえアガタ、本人がいないとだめって言われちゃったよ。困ったな」
「Facebookのグループとかは試してみた?」
「もうやったよ。だけどだめだった、そもそも返信してくれない」
「私からもメッセージ送ってみるから、誰に送ったか教えてくれる?それでも返信してくれなかったからそいつは糞イタリア人よ」
というわけで僕はメッセージを送った相手をアガタに教えて、彼女からもメッセージを送ってもらった。でもその後、彼らのことが僕とアガタの間で話題に上がったことはない。たぶん彼らは糞イタリア人だったのだろう。
「ところでRomolo、ほかに方法はないの?大学は何かしてくれないの?」
「う〜ん、教授に聞いたんだけど、大学にはそういうのはないって。あとはホームステイの受け入れ承諾書を書いてもらうって方法もあるけど」
「私が書いてあげようか?」
いや、君トリノ在住でしょ。トリノの人間の受け入れ承諾書でナポリ行きのビザが下りるほどザルではないと思うよ。だって東京の人間の受け入れ承諾書で鹿児島のビザは下りないでしょ?下りないよね?イタリアなら下りるのかな。
「でもアガタはトリノじゃん。承諾書には住所書かなきゃいけないし、身分証明書も必要なんだよ?」
「住所はナポリのホテルのとか適当に書いておけばいいんじゃない?」
「えぇ・・・さすがにまずいんじゃない?承諾書のフォーマットに色々書かれてるよ?とりあえず送るから見てよ」
「ほんとだ、このフォーマット、『虚偽の記載をした場合には処罰を受けることを認識しています』ってチェックボックスがある・・・」
いや、当たり前だろ。でたらめで外国人受け入れたら不法滞在の斡旋みたいなもんだしな?
「もしもでたらめを書いたらどうなるか、カラビニエリに聞いてみるわ。実際バレずにビザ降りるかもしれないし」
おい!!それはまずいって!!「でたらめな承諾書で外国人受け入れようと思うんですけど・・・」って警察に聞くって、ほとんど自白じゃん!!!
「いや、それはやばいでしょ!自白みたいなもんじゃん!やっぱり危ないからだめだって、君に余計なリスク負わせたくないし」
「でも私はRomoloのこと信頼してるし、問題も起こさないってわかってるから、なんとか助けてあげたいのよ」
「ありがとう・・・アガタは優しいね」
なんだか感動的な幕引きみたいになったが、何も解決していない。
大使館に相談してみた
犯罪まがいのことはしたくないので、なんとかならないか大使館に電話してみた。
「就学ビザの申請書類について、住居に関する書類というのは、例えばホテルの予約でもいいんでしょうか?日本からだと家が見つからないので、最初の2週間くらいは仮住まいをして、その間に現地で家探しをしたいんですが」
「それは認められませんね。まあこれはイタリアの法律が悪いんですが・・・」
「じゃあ、どうしたらいいんですか?」
「大学や語学学校に斡旋してもらってください。証明書類をかいてもらって、そこにあなたの住所氏名年齢があって、かつ入居日が書いてあれば、それで構いませんから。そのあと引っ越したりするのはもう、まあ色々事情があると思いますから、そこまではもう、まあ、ね?」
なんだかこの職員のおっさん、言いづらいことを察してくれと言わんばかりに声が小さくなる。
「え〜っとじゃあ例えば、大学とかに、でたらめで・・・いや、でたらめというかつまり住居の確保について何かしら書いてもらえば・・・大学に寮がなくても最初だけホテル・・・みたいなぁ?」
「いや、嘘をつけって言ってるんじゃないですよ(笑)」
そりゃそうだよな。
「う〜〜ん、わかりました。大学に確認してみます」
大学に確認してみた
教授にはすでに「よくわからん、そういうのはない」と言われているのだが・・・。とはいえ改めて大学のウェブサイトを見てみると、留学生向けのコーナーのものすごくわかりづらいところに受け入れ案内があるのを発見!
「エラスムスの学生向けに住居の手配を行っています。詳細はこちら」
エラスムスとは、EU圏内の交換留学プログラムのこと。当然僕は圏外なのでエラスムスには該当しない。が、困っているので細かいことは気にせず記載されている宛先にメールを送ってみる。
「こんにちは。日本人留学生なのですが、ビザ申請のために住居書類が必要になります。どのような手続きが必要なのかご教示ください」
「大学の受け入れ書類とパスポート送ってくれればいいですよ」
わりとあっさりと通った。教授からもらっている入学許可証とパスポートのスキャンを送って数日待つ。
ある朝目覚めると、夜中のうちに知らないホステルからメールが届いている。件名なし。
i'm marilisa from XXX hostel, i'm doing for you visto's document.
can you send me yuor address please?
何これ。念の為に言うとホステル名を除いて原文ママ。頑張って英語で書いてくれたのいいけど、vistoは完全にイタリア語だ。ともかく住所を送れば住居に関する書類を手配してくれるようだ。
でもこれって結局、大学がホステルを斡旋してくれたってことでしょ?自力で最初の宿を予約するのと実質的な違いはないよね。じつにバカバカしい。
ともかく住所を返信して対応待ちです。一体どんな書類ができあがるのか楽しみですね。