ナポリを見たら死ぬか?
Vedi Napoli e poi muori
ゲーテは、南イタリアを旅して、その美しさを讃えた。その際、彼が引用したのがこの言葉である――ナポリを見て死ね。
ナポリはたしかに、風光明媚だ。この街を知らずに死んではいけない。
だが、巷ではナポリを見たら死ぬなどと諧謔的に言われることがしばしばある。たしかに、"Vedi Napoli e poi muori"という句は、文法的には、「ナポリを見て死ね」とも「ナポリを見たら死ぬ」とも解釈できるうえに、ナポリのイメージはこの上なく悪い。ゴミだらけ、マフィアだらけ、治安が悪い、車が危険云々。だから、観光客には敬遠されているように思う。とりわけ、日本人観光客は、治安を懸念してナポリを避けているように思う。実際、ぼくがローマに住んでいたころには、日本人観光客を見ない日はなかったが、ナポリではほとんど見かけない。もちろん、絶対的な観光客の数の違いもあるだろうが、それにしてもあまりにも見かけない。なぜ来ないんだ。ナポリを見て死んでくれ。頼むから。
ナポリの治安は悪くない。観光するのに問題はない。無責任に、絶対に安全だとは言わないが、かといってナポリを見たら死ぬかといえばそんなことはない。そもそも、ナポリがイタリアで一番危険、みたいな考えがおかしい。単純に犯罪率だけで見たら、イタリアで一番危険なのはミラノだ。じゃあ、ミラノを見たら死ぬかといえばそれもない。ナポリは悪いイメージが先行しすぎている。そりゃあ、日本に比べたら治安は良くないかもしれないが、イタリアの中でも特別治安が悪いというわけでもないし、結局は危ないエリアに行かない、ということが一番大事なのだ。それはナポリに限った話ではなくて、ローマでもミラノでも、どこでも同じことだ。
ちなみに、ナポリで危険とされるエリアはスペイン人地区と呼ばれるエリアだ。狭い路地が密集していて、しかもそこを中学生くらいの少年たちがヘルメットも着けずに原付き3人乗りで走り抜けたりするのでたしかに危ない。さらにひったくりも少なくない。だが、そもそも観光地でもないし、怪しい路地裏に入らなければ、そんな危険はない。変なところに首を突っ込まなければよいのだ。
スペイン人地区はこのあたり。
ナポリを見ずに死ねるか?
この写真はサンテルモ城から撮影したナポリのパノラマだ。控えめに言って美しすぎる。こんなに美しい街並みを知らずに死ねるだろうか?胸に手を当てて考えていただきたい。
これはナポリピッツァである。控えめに言って美味しすぎる。こんなに美味しい食べ物を知らずに死ねるだろうか?頼むからもうサイゼリヤで満足しないでいただきたい。
これは夕暮れ時の広場に設置されていた鉄棒、あるいはぶらさがり健康器である。「2分間ぶら下がれたら景品プレゼント」などと書かれており、鉄棒部分の握り方まで丁寧に図示してくれている。控えめに言って面白すぎる。ちょっとした遊び道具の周りで、いい大人たちが真剣に煽り合っているのである。ぼくはこのとき、10分ほど誰かがやらないか楽しみに覗いていたのだが、結局皆騒ぎ立てるだけで誰も挑戦しなかったのが残念だ。こんなにもくだらないおもちゃに盛り上がることを知らずに死ねるだろうか?ナポリは君の挑戦を待っている。