ナポリを見たら死ぬ

南イタリア、ナポリ東洋大学の留学記。なお実際にはナポリを見ても死ぬことはありません。

フィジカルディフェンスについて

 

www.napoli-muori.com

先日、久しぶりにアルティメットについて書いたら、コメントが寄せられたので、回答する。 

ちょっと確認したい点がいくつか。
・駆け上がり絶対止めて、インサイ裏にプレッシャー、という考え方は同じでよいか。
だとすると、近づくべきか離れるべきかの違いと7人ディフェンスなのかどうかが違いかと思います。

まず、前提として前回の記事は、設定された条件や優先度に従って、かつ「ハンドラー1の立ち位置はどこか」という問いに対する回答に絞って書いている。つまり、駆け上がりを絶対止めて、インサイ裏にプレッシャーという前提は共有している。もちろん、激しい向かい風が吹いているとか、チームとして何か特別な戦略があるとか、異なる条件があれば優先度も変わり得るし、そもそもミドル以降の身体の向きはそれでいいのかという疑問もあるが、それはまた別の話なのでここでは割愛する。

・一点目について、問2.問4の回答はどうでしょうか?というのは、離れるべき時に離れるべきと考えるのか、常に近づいているべきと考えるのか知りたいです。前者の場合、記事から読み取れないので基準を教えてほしいです。(なお、僕も止められるならくっつくべきと思いますが、ルール(下参照)と、足の速さにより、離れないと止められないと思ってます。)

離れるべき時には離れるべきと考える。が、常に一定の基準に沿ってディフェンスをすることはできない。基本的にはくっついているとして、優先順位を考慮したうえで、状況に応じて離れるべきだろう。

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https://tokyodarwin.hatenablog.com/entry/2020/05/09/121703 より

たとえば問2およびその回答については離れても構わない状況のひとつと言えるだろう。自分が裏展開を切るコースに立つことで、相手の選択肢を減らせるからだ。しかし一方で、ストーリングカウント4秒くらいからは自分の相手にくっつくだろう。一般的にこの状況ならオフェンスは最初から後ろへパスを出すことはしないが、状況が悪くなれば後ろでつなぐことを狙ってくる。そこでターンオーバーを狙いたいので、「出されてもいい」エリアに出させないようにする。
つまり、状況や戦術によって”基準”は大きく変化しうるので、一概に語ることはできない。問2の状況にしても、チームとして「ターンオーバーを狙う」のではなく「時間稼ぎをする」のであれば、最後までくっつかない、という選択肢もあり得るだろう。

・二点目について、くっつくディフェンスが、どう他の1対1に絡むのかがわかりませんでした。離すDでは、少なくともマーカーと連携しているはずです。

 

 仮に一本インサイドスロー、ブレイクスローが出たとすると、次は(おそらく)ミドル以降のディフェンスが各々1vs1の勝負をすることになる。このとき、自分が離れていてストーリングに入れなければ、後ろとの連携が全く取れていないことになる。また、問題中の離すディフェンスは、連携というよりも”責任転嫁”に陥る可能性を感じた。たとえばストーラーは「インサイドはマーカーの責任だからおれは裏だけ守ればいい」、マーカーは「裏はストーラーの責任だからおれはオープンとインサイドに少しプレッシャーをかければいい」と考えかねない。必ずしも間違った考えではないが、「ストーラーとして裏を守りつついかにインサイドにもプレッシャーをかけるか」「仮にストーリングの裏が抜かれそうになったときに、自分がハンドラーのディフェンスとして相手にくっついていることによって、スローワーにプレッシャーを与えられるだろうか」ということまで考えられて初めて、本当の意味で連携と言えるのではないか。

あと一点、体で止めるディフェンスについては調べてまして、ルールの定義集の中に「身体接触を引き起こす」の欄があります。止まってる相手に対してくっついて立つのは問題ないですが、動き始めて横をすり抜けようとした相手の前に入ることは、これに該当し、反則になるようです。だから自信持って書いたんですが解釈間違ってたら教えてください。

フィジカルディフェンス=ファール、というわけではない。まず、WFDFのルールを引用する。

17.8. ブロッキング・ファール:

17.8.1. 動いている相手チームの選手が身体接触を避けることができず、選手同士が接触してしまうようなポジションを取った場合に発生する。 (後略、JFDAの日本語訳公式ルールより引用)

 フィジカルディフェンスで問題となるのは、このルールだろう。大前提として、アルティメットは身体接触をしてはいけない、また危険なプレーをしてはいけないスポーツなので、フィジカルディフェンスをするにあたって「ぶつかりにいく」ことは避けなければならない。

一方で、ルールには下記のようにも書かれている。

12.9. プレイの結果や選手の安全に影響しない範囲の偶発的な身体接触は、2人以上の選手がある1点に向かって同時に動いた場合に起こりうる。偶発的な身体接触は可能な限り避けるべきだが、ファールとはみなされない。 

ここで問題になるのは、「選手同士が接触してしまうようなポジション」を取るというのはそもそもどういうことなのかである。なぜなら、逆に言えば、そういう動きをしなければ、「安全に影響しない範囲の偶発的な身体接触」は、必ずしも「ファールとはみなされない」のである。 

さてここで、WFDFが公開しているアルティメットのルール解釈集をあたることにする。昔はJFDAによる日本語訳が公開されていたような気がするのだが、見当たらなかったので、ここでは英語原本を引用する。なお、解釈集はこのページの"WFDF Rules of Ultimate 2017 - Official Annotations"よりダウンロードできる。

17.4 Blocking Fouls (17.8)

Note

Every player has space reserved in the direction of their movement. The size of this space depends on a lot of things (speed, direction of view, playing surface, etc) and is as large as the answer to the question "if a tree suddenly materialized in this space, could the player avoid contact (without a manoeuvre risking the health of their joints)?"

Moving in a way that this space becomes unreasonably large (running full speed with your eyes closed without checking frequently where you are going would be an extreme example) is considered reckless.

If two players have the same space reserved at the same time and contact occurs, whoever caused the conflict of reservations (i.e. whoever last moved so that their reserved space clashed with the other players reserved space - usually the player who got the reservation last) is guilty of the foul.

Players are free to move any way they like as long as this does not cause an unavoidable collision.

A collision is avoidable for a player if the player could have reacted in time and avoided it, given the circumstances involving their speed and line of sight.  

簡潔に言い換えれば、「その時々の状況に応じて、常識的に相手の動きに反応したとして、怪我なく衝突を避けられる位置取りならばブロッキングファールではない」ということと、「もしも同一のスペースに二人が突っ込んで接触が起きた場合には、あとからそのスペースに向けて動き出したプレーヤーが悪い」ということである。ここでは「そのスペースに突然木が現れたときに、プレーヤーは衝突を回避できるか」という問いに対する答えが、ある位置取りがブロッキングファールになるかならないかの目安として例示されている。

つまり、前回記事より書いているフィジカルディフェンスに関して言えば、理論的には「相手が衝突を回避し得る位置取りでコースを塞ぐことはファールではない」と言える(むしろそのような状況では相手は回避しなければならず、衝突した場合には相手のファールとなる)。また、接触は可能な限り避けるべきではあるが、二人以上の選手が同時に一点へ向かって動いたことによって偶発的に接触が起きても、必ずしもファールとはならない。ゆえに、フィジカルディフェンスも(正しくやれば)問題はない。

より実践的には、アルティメットはプレーヤー自身が審判の役割を担っているので、裏を返せば「どこからがファールか」を決める一定の裁量権もプレーヤーにあると考えられる。

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だから、この動画のフィジカルディフェンスのように、ファールか否か、そもそもファールだとしてもどちらのファールなのか意見の分かれそうな身体接触でも(個人的には極めて厳しく判定をすればむしろオフェンスファールだと思う)、プレーヤー同士の暗黙の了解が自然と形成されるものだ。こうしてビデオで繰り返し再生しても判断に悩む状況を、「目の前に木が現れたとして回避できたか」などと考えてその都度正確に判断することなど不可能だからだ。とくにハイレベルな試合になればなるほど、限られた有効なスペースを狙って駆け引きをすることになるため、必然的に身体接触も多くなる。そのとき、どこまでが「偶発的」として流せるのかは、相手とのすり合わせの結果になるだろう。

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こちらは問いと状況がやや違うが、ハンドラーの1番から3番までが全員フィジカルディフェンスをしている。質問の「動き始めて横をすり抜けようとした相手の前に入ること」がどのような状況なのかよくわからないが、仮に1番の動きだとすれば、むしろオフェンスのファールに見える。2番、3番のそれだとすれば、動いている相手対して並行移動しているだけなので当然ファールではない。(動画元:https://youtu.be/YmmZ13gfGoY