ナポリを見たら死ぬ

南イタリア、ナポリ東洋大学の留学記。なお実際にはナポリを見ても死ぬことはありません。

ナポリの行く末を憂う

先週半ばくらいからロックダウンをするとかしないとか、レッドゾーンを指定するとかしないとかで、イタリア政府と州との間で激しい議論があり、あまりにも話がまとまらないので、日曜日くらいには対応が決まっているはずだったのが、今日になってようやく首相令が出た。

僕としてはレッドゾーンの話が出た時点で、我がカンパニア州は当然、そのような地域として指定されるだろうと思っていた。当初は、とくに感染が拡大している地域をレッドゾーンとして、厳格なロックダウンを行う、というような話だったからだ。実際、先週の時点でカンパニア州は一日あたりの新規感染者数が3,000人を超えていたし、検査数に対する陽性率も17%だとか極めて高いうえに、一向に収束の気配を見せていなかった。

ところが、今朝になって、カンパニア州はオレンジゾーンの指定を受けることになりそうだと報道が出始めた。オレンジゾーンってなんだよ。読むと、地域の状況に応じて、レッドゾーン、オレンジゾーン、グリーンゾーンの三段階の色分けをすることにしたという。つまり、カンパニア州は深刻な状況だが、レッドゾーンに指定するほどの状況ではないということ、だったらしい。それもどうかと思うが、いずれにせよオレンジゾーンはレッドゾーンとたいして変わらず、コムーネ間の移動ができなかったり、レストランが封鎖されたりするので、実質的にはロックダウンされるようなものである。細かいことを言えば、営業が禁じられる商店の範囲などいくつか差があるのだが、自由に隣町へも行けないような状態で、たとえば服屋が営業できたとしても、一体どれだけ営業する意味があるのかは謎である。なおグリーンゾーンは、感染状況が比較的穏やかな地域で、夜間の外出禁止や休日の店舗の営業などにいくつか制限があるものの、基本的には移動の自由は制限されない、というものだった。

さて、ついさっきようやく首相令がまとまると、カンパニア州はなんとイエローゾーンに指定された。イエローゾーン?どこから出てきたんだお前は。どうやら、レッドゾーン、オレンジゾーンに加えて、イエローゾーンを指定することにしたらしい。つまり、先のグリーンゾーンを名称だけ置き換えただけだ。すなわちカンパニア州は一番感染状況がマシな部類とされたわけである。そんなバカな話があるだろうか?今日も元気に4,000人の感染者を記録し、毎週50%ずつ感染者数が増えている(そしてこの増加率はイタリアで文句なしの最悪である)のに、イエローゾーン?冗談ではない。だいたい、数週間前には州知事のDe Luca氏が「カンパニアはすぐにでもロックダウンするぞ」と凄んでいたではないか。あれだけ煽っていたくせに、いざ市民から批判が続出したから、政府に抵抗したのだろうか。わからない。意味がわからない。そのうち今回の分類の根拠が公開されるらしいので、是非とも確認したいのだが、一体どんなロジックがあったのか全く想像もつかない。

いずれにせよこれでカンパニア州はロックダウンを回避した。飲食店は18時までの営業に制限されるが、封鎖されることもない。また、移動の自由も基本的には制限されない。しかし、決して良い結果はもたらさないだろう。結局、政府も州も、何もかも中途半端にしてしまったのだ。数週間前、抗議活動がおきたとき、人々は「封鎖するなら補償しろ」と声を上げた。政治家たちは、人々の望みを上手に誤解したのだろう。イエローゾーンのカンパニア州では日中の街は封鎖されないので、店舗の営業は理論的には続けられる。だが現実的に商売として成立するだろうか?しかも、封鎖されていない以上、どのような補償があるかは不透明である。また、感染拡大に急激な抑制をかけられるとも思わない。つまり、封鎖も補償も感染抑制もすべて中途半端にされたわけだ。

イタリア、第4シナリオ突入へ

 

先ほど、いつものように今日の新規感染者数を確認したら、3万人の天井を突き破っていた。そしてこんな記事も出ている。

Coronavirus Brusaferro: 'Verso scenario 4: situazione grave' - la Repubblica

そう、イタリアはいよいよ第4シナリオに突入するのである。第4シナリオとは、そう、僕が一体何個あるのかも、そもそも何のシナリオのことなのかも全く知らないシナリオのうち、おそらく4番目のシナリオのことである。

第4シナリオってなんだよ。いつのまにそんなシナリオが想定されていたんだ。全く知らなかった。ともかく、感染者の増加も止まる気配がないし、悪いシナリオであることは間違いないだろうと不安を覚えつつ記事を読みすすめると、ピエモンテロンバルディアの実行再生産数が2を超えただとか明らかにヤバすぎることが書いてある。おまけにイタリア全20州のうち11州は感染をコントロールできなくなるリスクが高く、他8州も1ヶ月後にはそのような状態に陥る可能性が高いらしい。ここに含まれなかった、ただ一つの州だけが生き残るポスト・アポカリプスな世界が到来したりするんだろうか。

いずれにせよ第4シナリオというのは、Rt=1.5を大きく上回って、感染がコントロールできなくなり、医療崩壊につながるようなシナリオのことらしい(Coronavirus, perché ci stiamo avvicinando allo scenario 4 e cosa significa - Il Sole 24 ORE)。そして、そのようなシナリオに対しては、全面的なロックダウンをするべき、との指針があるようだ。つまり、やっぱりだめみたいですね。ロックダウンも時間の問題か。「今のイタリアは2週間前のフランス」とかいうわかりづらい言い回しの記事もあって、それって大いに「今のフランスは2週間後のイタリア」である可能性があるわけで、となるとやっぱりだめみたいですね。フランスは全面的なロックダウンをする(している?)みたいだし。

「チャオ、同じ授業を受けてる学生なんだけど、ノート見せてくれない?」

などというメッセージが送られてきた。たしかに、相手は僕のクラスメイトで、クラスの全体グループにも参加している。なんでも、「昨日までインターネットに繋がらなくて授業に参加できなかった」ので、ノートを見せてほしいというのである。秋学期が始まって3週間、お前のこと他の授業で見た覚えあるけどな。まあ、何かしら事情があったんだろう。遊んでいたのか仕事をしていたのか、単にやる気がなかったのか知らないが、ノートは減るものでもないので見せることは一向に構わない。しかし残念なことに、僕のノートは日本語だらけである。日本語知識ゼロのイタリア人学生には理解不能であろう。ということで、クラスメイトには諦めていただく。

ところで、世の留学生はどうやってノートを取っているのだろう。僕はイタリア語で授業を受けながら、イタリア語と日本語混じりのノートを書いているのだが。優秀な人は第二言語だけでノートを書ききったりするんだろうか。というかそうしたほうが言語習得的にはいいのかな。

Quidquid latine dictum sit, altum videtur

なんのことはない。タイトルは「なんであれラテン語で述べられたものは、格調高く見える」というだけのラテン語である。

10月から修士課程2年目に突入し、まだ来年の話ではあるが、後期にラテン文学の授業があるのだ。それに向けて、ラテン語演習の授業が週一回で開講されているので、今期から受講している。ただ、この授業は本当にゼロからのスタートなのに対し、僕は以前から半ば趣味でラテン語を勉強しているので、一番やさしい部類と言われるカエサルやネポスくらいなら読める程度の能力はある。とはいえ、週に一度であれ、定期的にラテン語に触れるのは悪くないし、今までずっと独習でやってきたので、意外と土台に怪しいところもあるかもしれないと思って、授業を追っている。それに、結局何かしら演習の単位を取らなければならないので、どうせラテン語で取れるならそれでいい。周りのイタリア人学生も、「高校で勉強したけど来期に備えてラテン語を思い出しておきたい」などと、似たような動機で受講しているラテン語既習者が多い。

ともかく、授業では文法事項を確認したり、ラテン語のテクストを翻訳したりする。いまのところは動詞の活用や名詞の曲用くらいの単純な文法事項しかないのでたいしたことはない。そのうち込み入ったテクストや詩を読むようになるのが楽しみだ。

ところで、演習の授業だけあって、毎回、演習問題が宿題として課される。といっても宿題は義務ではないので、気が向いたらやればいい。演習問題は翻訳がメインだ。僕としてはラテン語→イタリア語訳でラテン語の理解力を高めると同時にイタリア語の添削まで受けられる一石二鳥だし、イタリア語→ラテン語訳でラテン語作文の添削をしてもらえるのが嬉しい。いままでは独習だったので、ラテン語作文はまともにやったことがなかったのだ。
ということで教授に指定されたとおり、Wordファイルに解答を書いてメールで送付する。すぐに返信が届く。「連絡ありがとう。解答、Teamsに匿名で上げても構いませんか?」。実際、匿名であろうがなかろうが、僕の解答が公開されてもまったく構わないの快諾するが、匿名にしたところで僕の解答であることはバレてしまう。他に外国人生徒がいないので、イタリア語の拙さを見れば誰のものかは一目瞭然だからだ。教授の配慮は親切だが、あまり意味はない。

ナポリ、おしまい(7ヶ月ぶり2回目)

 

www.napoli-muori.com

 今年3月、Covid-19の感染拡大により公衆衛生上の危機に直面したイタリアは、ロックダウンを行った。そしてナポリもおしまいを迎えた。

とは言ってもいつまでも何もかも封鎖しているわけにもいかないので、感染者数が減少するに従って措置は緩和された。その間も当然、ウイルスは人びとを介して密かに生き延びていたわけだが、致命的な打撃を受けた経済を再生させるために旅行キャンペーンが展開されるなど、まあ、ウイルスは恐れられつつも夏場は楽しまれた。

そして大方の予想通り、第二波がやってきた。10月になってから徐々に増え始めたかと思ったら、突然爆発し、気づいたらイタリア全体で今日の新規感染者は2万人近い。ナポリのあるカンパニア州も、昨日は1500人程度だったのに、今日は約2300人である。控えめに言っても全然だめ。
そもそも州知事のデ・ルーカ氏は、「州内の新規感染者数が毎日1000人を超えたらロックダウンしなければならない」などと発言していたのだが、その後数日ほどでこの防衛線は軽々と突破されてしまった。とはいえいきなり全部封鎖したりすれば経済的に死亡してしまうので、夜24時以降の公共空間での飲食を禁止する、くらいの比較的軽めな措置を導入したり、クラスターが発生したコムーネをピンポイントでロックダウンしたり、それでも収まらなかったら今度はレストランの終業時間を早めてみたり、徐々に規制を強化することで経済と公衆衛生とのバランスが取れるところを模索していたようだが、だめだった。2300人感染で、検査数に対する陽性割合は14.5%、新規感染者のうち95%以上が無症状ではあるものの、放置したら医療崩壊は免れない。そんなわけで、つい数日前に決まった23時以降の夜間外出禁止令が今夜から効力を発揮することになっているのだが、本日の感染者数を受けたデ・ルーカ氏は「今日から始まる規制では不十分だ」と自分で決めたはずの対策について至極真っ当な感想を述べ、「すぐにでも全てを封鎖する用意がある」と宣言した。というわけで、ナポリはまたしてもおしまいである。

これを受けて僕は、本気のロックダウンとなるとピッツァの宅配すら禁止されかねないので、今夜の夕食を当然ピッツァにした。食べられるうちに食べねばならぬ。

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